山の神と海の神の出逢う国、熊野(くまのみち)ーーー
紀伊山系の急峻な山岳の水系を集めた流れと、偏西風に乗って繰り返されるモンスーンの出会いが、摩訶不思議な独特の朝霧の雲海の世界を創り出す「地」が、熊野である。夜明け前、眠っていた龍神が微動する「ひととき」が、訪れる。太陽が昇ると、龍神は勢いを得て、さらに谷筋の山里を呑み込み、ついには峠の稜線をも越えて、黒潮の回廊、熊野灘へ流れ落ちてゆくように見える!それが。地元では、風伝おろしと姿を変える。
森影の漆黒の闇からの生命感はリアルである。落ちた枯れ枝を夜行性の「いきものたち」が、踏みつけて折る音が、それ以外は全くの無音の世界から、凍てついた空気を切り裂いて、「恐怖」が全身五感、六感に走り伝わる!教科書?にある間違いだらけの大自然の生態の常識。熊野では熊は真冬も眠らない。活発に行動するばかりか、人から逃げることは無く。ほかのいきものたちも基本的には、身を守る為には相手を見る行動を取る。それが夜の野生圏で撮影を続けて知った「現実」・・・。
今まで、撮れた「夜のいきものたち」は待って撮ったものでは無い。喰うか喰われるか?生か死か?紀伊山系の夜は「人」もまた、食物連鎖の弱者にほかならない。まさに「もののけ」の世界で、朝を待つのは泣きたくなる辛さもあるが、星空がすべてを紛らわしてくれる夜も有る。
好い写真が撮れますように。無事に朝が来ますように。ただひたすら、祈るしか無い!